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研究内容

我々は、理学(物理学)としての量子光学研究と工学(応用物理学)としてのナノフォトニクスデバイス開発を融合し、量子状態の極限的な生成・測定・操作技術を開拓することで、光の量子性に起因する特異な現象の観測と量子情報・量子計測への応用を研究しています。

その中心となるのが、共振器量子電気力学(QED)の研究です。共振器QED系は、光共振器に閉じ込められた光と、それと相互作用する原子からなる系であり、光共振器の閉じ込め性能が大きいほど、光と物質の量子性がより純粋な形で顕在化します。 そのため、共振器QED系は量子光学の理想的な実験対象であると同時に、光と原子の量子性を活用したさまざまな量子技術の基盤となり得ます。

ナノファイバー共振器QED系

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光の波長以下の直径を持つ光ファイバーであるナノファイバーは、表面近傍でのエヴァネッセント波が大きな振幅を持つため、その導波モードを単一原子と直接、高効率に相互作用させることができます。 我々は独自の技術を用いて、99.97% 以上という世界最高の透過率を持つナノファイバーの開発に成功しました。 さらに、ナノファイバーとファイバーブラッグ格子(FBG)を組み合わせた「ナノファイバー共振器」を開発し、これにレーザー冷却・トラップされた単一原子を結合させることで、世界で初めて全ファイバー共振器QED系を実現しました。この系を用いて、原子と光の量子状態の極限的な生成・測定・操作技術を開拓しています。

ナノファイバー共振器QED方式量子コンピューター

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量子コンピューターは、社会・産業に大きな変革をもたらすことが期待される重要な量子技術です。現在、さまざまな物理系に基づくハードウェア方式が世界中で開発されていますが、いずれの方式も、量子ビット数の大規模化に関して大きな課題を抱えています。 一方、共振器QEDは、量子情報科学分野の黎明期から量子コンピューターの有望な動作原理として研究されてきました。特に、個々の原子と共振器の結合を強く保ったまま共振器内に多数の原子を配置し、それらに個別にアクセスすることができれば、多量子ビットの量子コンピューターが実現できると期待されてきました。 しかし、従来の共振器QEDに用いられてきた空間光学共振器では、これは技術的に困難でした。我々の開発したナノファイバー共振器QED系では、各原子と共振器の結合レートを大きく保ったまま多数の原子を同時に共振器に結合できます。また、これらの原子はナノファイバーの軸方向に一列に並ぶため、各原子に個別にレーザーを照射してその量子状態を操作・測定することが可能です。これらの特徴を活かし、世界唯一の独自技術に基づくナノファイバー共振器QED方式量子コンピューターの研究開発を進めています。

分散型量子コンピューターと量子ネットワーク

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共振器QED系同士を伝搬モードを介して低損失に接続することができれば、多数の共振器QED系が巨視的距離を隔てて結合した量子ネットワークが構築できます。従来の空間光学共振器に基づく共振器QED系では低損失な接続は困難でしたが、我々は、ナノファイバー共振器QED系を用いて、複数の共振器QED系を光ファイバーのみで低損失に接続した「結合共振器QED系」を世界で初めて実現しました。 この技術に基づき、上記のナノファイバー共振器QED方式量子コンピューターをユニットとして多数のユニットを接続することで、ネットワーク全体を量子コンピューターとして動作させる「分散型量子コンピューター」が可能になります。分散型量子コンピューターは、ユニットの物理的制約に縛られずに量子ビット数を拡大可能であり、大規模な誤り耐性汎用量子コンピューターの実現に有用です。また、遠く離れたユニット間を光ファイバーで接続することで、長距離量子通信ネットワークや地球規模の量子インターネットの実現も期待されます。